サンフランシスコ・ベイエリアの『食』領域で活躍する日本人オーナーに迫る 2 後編

第二回 炭家・俺ん家(ビヨンド)・いろり家 丸山ビジネスパートナー兼エグゼクティブシェフ

サンフランシスコ・ベイエリアで、圧倒的な支持を集める飲食店4店舗を経営する、オギク・コーポレーションの事業開発ディレクター兼エグゼクティブ・シェフの丸山氏。『Sumika(炭家)』、『Orenchi(俺ん家)』、『Orenchi Beyond(俺ん家ビヨンド)』そして『Iroriya(いろり家)』と、どのお店も連日大盛況の人気店ばかりだ。

前編はこちら

前編では、丸山氏の成功の裏側に隠されたストーリーに迫った。後編では、最新のお店「いろり家」での取材内容の紹介とフリートークの内容をお届けする。前編に引き続き、アメリカ進出したい飲食店のオーナー必見である。

人がやらないことをやる、次は炉端焼きをオープン

maruyama-chef-chef丸山氏の快進撃はまだまだ止まらない。2013年に炉端ダイニングである『いろり家』をオープン。場所はラーメンの俺ん家のすぐ隣で、もともとはコインランドリーだった場所を、お店のデザイン含めて一から創り上げた。外から見ると、そこにお店があることすら気づかないくらいひっそりとした佇まいだ。

maruyama-chef-iroriya-ent待つ人でごった返している、隣の俺ん家とは対照的。俺ん家の客層とは異なる、ビジネスやアニバーサリーでも使えるようなお店にしたいという思いから、あえて看板も出さす、隠れ家のような雰囲気にしたのだ。
なぜ、炉端焼きだったのかを聞いてみた。すると、1.まだ誰もやっていなかったこと、2.真似しようと思っても、そう簡単に真似できる商品ではないこと(特にアジア系からの模倣が多いらしい)、3.自分が食べたかった、というここでも丸山氏の性格や考え方を大いに表した回答が帰ってきた。

しかし、いろり家は俺ん家と違って順風満帆だったわけではない。まだ誰もやっていないということは、裏を返せば認知度が低いということだ。メインの食材である『干物』がアメリカ人に理解されるのは、時間がかかる。オープンから約2年経った現在でも、まだまだ干物の認知度は低いが、ようやく採算がトントンになってきたくらいだと言う。

今回の取材はこのいろり家でやらせていただいた。食べた感想としては、『真似しようと思っても、簡単に真似できない』の意味がよく分かる、こだわりのお店だった。

maruyama-chef-counterお店を入ってすぐに、備長炭の炉端カウンターがあり、新鮮な魚介類が並んでいる(訪問が夜の10時過ぎだった為、食材は残り少なくなっているが)。

maruyama-chef-fish魚介類は週に3回築地から調達。いろり家の入居するビルの屋上を使って、手作りで自家製干物を作っている。サンタバーバラ産の雲丹や、一部を除く、ほぼ全ての魚介類は築地のものを使用。
maruyama-chef-mentaiko明太子の炉端焼き
表面だけを軽く炙った明太子は、ほのかに暖かく、程よい塩味と辛味が酒の肴に相性抜群。

maruyama-chef-miyajima丸山氏が持っているのは、『みやじま』というカウンター越しに焼いたものを出す板。本来、日本では炉端焼きはカウンター席のみというスタイル多い。その時にこの板を浸かってカウンター越しにお客さんに出すそうだ。実際に持たせてもらったのだが、とても重くて、数秒も持ってられないくらいだった。

maruyama-chef-tako蛸の炉端焼き
3日間自家製のつけ汁につけて、その後2日間干し、炭火で焼いたもの。甘辛のタレがしっかり染み込んでおり、噛めば噛むほどに味が出る。こちらも酒の肴にぴったりだ。

maruyama-chef-kuromutsu黒ムツのカマの干物焼き
黒ムツは、こちらに来てからほどんどお目にかかることのできない品。もともとカマが好物の筆者、しかも黒ムツとくれば美味しくないはずがない。それを干物にし、備長炭で焼き上げることで、旨味が凝縮して、さらに美味しい。

maruyama-chef-kamasuカマス造りキズシ
カマスを生ゆずなどを使い、20分ほど〆たもの。カマスも当地では出会えない魚の一つである。その日に入荷したカマスを3枚に卸して、まずは脂の乗り具合を確認する。脂具合を見て、〆方を変えるそうで、まるでお鮨屋さんのようだ。同様にして、〆鯖も4時間かけ、手間暇かけて〆ている。

maruyama-chef-ramen裏メニューラーメン
俺ん家の隣というロケーションで、丸山氏がお店を出せば、当然友人達や馴染みの客からリクエストがあるだろうと、裏メニューで用意しているラーメン。真鯛の干物、真鯛、オーガニックの丸鶏二本を入れて、じっくり煮込んでスープを取ったラーメン。(あまり誇示はしていないが、丸山氏のお店では、卵も鶏肉もオーガニックを使用している。)
食べてみると何とも上品で、大人の味。俺ん家で出しているラーメンとは、全く雰囲気が違い、まるで高級割烹がラーメンを作ったらこうなるのかというような、優しい出汁がしみ渡るよう。丸山氏もこのラーメンの出来はとても自信があるようだが、材料費も高く、量もあまり作っていないので、あくまでも裏メニューとしている。これを読んだあなたなら出してもらえるかも?

maruyama-chef-dessertあおさのマドレーヌとホワイトチョコレートきな粉
デザートにもとことんこだわる丸山氏。ありきたりなものは出したくないと、ここは敢えて抹茶などのポピュラーな食材ではなくあおさを使うんだとか。マドレーヌにあおさ海苔という大胆な組み合わせが、意外なマッチングを見せてとても美味しい。きな粉とホワイトチョコもよく合う。デザートにも四季が感じられるよう、飲み屋ならではのデザートを作っている。

手間暇をかけて作られた料理は、この界隈の和食店や居酒屋とは、一線を画すものだった。お料理は全体的に、お酒によく合うよう作られており、筆者のようなお酒好きにはたまらない。いろり家は、当地の日本人が、こんなお店があったらと思うものを具現化したようなお店なので、皆のツボになること間違いなしだ。これがアメリカ人に理解されるまでには、時間がかかるかもしれないが、炭家同様、徐々に人気が広がっていくのだろう。

当地ならではのVIPとの出会い

前編でもアルファベット社のラリー・ペイジ氏を一時間半も待たせたストーリがあったが、他にどんなVIPを顧客に抱えているのか聞いてみた。

炭家は、フェイスブックの創業者でありCEOのマーク・ザッカーバーグ氏と夫人のプリシラ・チャン氏が常連だそうだ。ゴマのパンナコッタが好物で、来店前に取り置いてくれるよう電話がかかってくる。しかも、特別な席をリクエストするのではなく、店の入り口脇に2席だけある屋外席(下写真のとおり、決していい席ではない)を好むらしい。2人の来店ながらチップで$200〜$300置いていくという、気前の良さはさすが。

maruyama-chef-sumika炭家には、水泳の北島康介氏も来てくれたそうだ。
いろり家は、ライフスタイル分野における実業家で、アメリカではとても有名なマーサースチュアート氏が、いたく気に入っているよう。最初の来店から一ヶ月もしないうちに、仲間を連れてリムジン4台で来店したそうだ。
他にもIT界の大物が来てくれているようだが、顔だけでは分からない、とまたしても丸山氏の大物節が出た。

今後の展望

現在の人生における達成度を55%と語る丸山氏。今後の展望としては、日本に逆輸入のような形で、お店を出したいと考えているようだ。そして、現在新しいプロジェクトが進行中だが、また公に出来る段階ではないとのこと。2016年3月頃を目処に内容を公開するようなので、続報を待ちたい。

その他いろいろQ&A

Q:現在の各店舗の日本人比率はどれくらい?
A:いろり家日本人6割、炭家3割、俺ん家ラーメン1割以下、俺ん家ビヨンド3割。

Q:ビジネスをする上でアメリカは、ここが困る!というのは何?
A:仕入れの業者が予定通りに持ってこないことがよくある。日本では考えられないことだが、もしその食材が欠けていたとしても、対応出来る用意が必要。あと、来るはずの人が来ないということもよくある。以前はいちいち怒っていたが、慣れてあまり怒らなくなった。。。

Q:ベジタリアン対応は?
A:これもアメリカでレストランをやる上では、必ず検討しないといけないこと。当日いきなり言われて対応出来ないが、予約の時点でベジタリアン対応をリクエストされれば、自分への挑戦も含めて、コースで対応する(いろり家の場合)。

Q:アメリカでレストランビジネスを始めるには?
A:アメリカでは物件を借りるのに、まずはビジネスの権利を買わないといけない。それを5年と読むか10年と読むか。特に当地は賃料が高いが、5年以上前に、10年で権利を買ったものは賃料が抑えられて助かっている。

Q:シェフはどこから?
A:いろり家と炭家のシェフは、日本からE2ビザで来ている。面接はスカイプ。良ければ日本で直接面接し、ビザの手配も行う。

Q:英語上達の秘訣は?
A:DJ!やはり遊びは大事。

Q:失礼ながら、MSG(化学調味料)は使っていますか?
A:使ってないし、お店にも置いてない。やはりMSGは現地人からの抵抗が多いし使いたくない。ただし、ラーメンには、本当に微量使っている。

Q:日本からこちらに進出したいと思っている、シェフへ一言。
A:連絡ください(笑)

以上、同じ日本人としてますます応援したくなる、今後の活躍も楽しみな丸山氏のインタビューだった。

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