サンフランシスコ・ベイエリアの『食』領域で活躍する日本人オーナーに迫る3 酒ブルワリー後編
「メイド・イン・サンフランシスコ」の日本酒作りを追った
ーサンフランシスコ初の酒ブルワリー「セコイヤ・サケ(Sequoia Sake)」ー
前編はこちら
前編では、20年間IT系で働いてきた夫婦が、どうやってマイクロ酒ブルワリーの創業に至ったのか。そして起業した後、実際に酒作りをスタートするまでのストーリーをご紹介した。後編では、実際の酒作りの様子、酒ティスティングの感想、今後の展望などについて記載する。
いざ、サンフランシスコ初の酒ブルワリー見学へ
ブルワリーのある場所は、サンフランシスコ市内でも一番南のベイビューと呼ばれるエリアの工場地帯にあった。中に入るとひんやりする、広い空間に、酒作りの機器が並んでいる。
米を蒸すポットとコンロ。高温の蒸気で、一度に60kgまで蒸せる。多い時には1日で120kg蒸す時も。直火があたりやすい下部は米がねとっとするため、ダミー米を下に敷く。
このタンク2台は、蒸米(8割)・米麹(2割)・水を入れて、3週間程発酵させる。
発酵タンクの中。麹が米のデンプンを糖分に変え、糖分がアルコールに変化する。
発酵した米を袋に入れ、左側のプレス機械にて液体と酒粕に分ける。精製された酒は、右側のビール用の貯蔵タンクにて、マイナス温度で保存。マイナスの温度で保存することにより、出来立ての鮮度が保たれる。
瓶詰めしたものは、温度2度の業務用冷蔵庫で保存(家庭用冷蔵庫よりもはるかに低い温度設定により、生酒の鮮度をキープ)。
米麹を作る元となる麹菌。米麹作りはクリーンルームの専用部屋で、オンラインで温度管理をしながら行う。この専用部屋の扉の上には、松尾大社の酒業繁栄のお札を入れて、神棚に飾っているところは、やはり日本に馴染みのあるお二人ならでは。
出来上がったお酒3種を飲み比べ
こうして出来上がった生酒が3種類。ボトルに書かれた動物やロゴのデザインは、ご主人のマイリック氏が行った。左から順に
- 「Nama(生)」:アルコール度が14-15%くらいで、さっぱりフルーティーで、日本酒特有のぐっとくる感じが無く、飲み易い。酵母も原酒とは違うものを使っている。
- 「Genshu(原酒)」:全く水を足していない、出来上がったそのままのフルボディーな力強いお酒。割水をしていない分、アルコール度数が高く、17-18%のアルコール度数。
- 「Nigori(濁り)」:アメリカ人で人気のある濁り酒。甘めな濁り酒よりも、料理に合うスッキリしたものをと思って作ったとの話の通り、甘くなくすっきりした味わい。
現状の販売状況としては、生4割、原酒4割、濁り2割という状況だそうだ。当地に住んでいると、手に入りやすさから、飲むお酒はもっぱらワイン、ビール、カクテル中心の筆者。日本酒について語れるほど詳しくはないが、生酒らしい味や香りで、素直に美味しいと思った。
『ローカル産を支援』の精神に支えられた販路開拓
メイド・イン・サンフランシスコの生酒作りに共感、興味を持ってくれる人からの応援・紹介もあり、現在は8軒のレストラン(イザ・ラーメン、居酒屋りんたろう、リホリホヨットクラブ、ハッカサン等)及び、バイライト・マーケットなどの一部の高品質グローサリーストアで取り扱われている。
日本酒は通常、2回加熱工程を加え、完全に酵母を死活させる。しかしセコイヤは生酒で、生きた酵母が入っているため、火入れをしてるものと比べて、賞味期限が要冷蔵・未開封状態で3ヶ月と短い。そのため、レストランやマーケットには2〜3週間で消費できる程の量でオーダーしてもらい、こまめに配達するという手間をかけている。
ベタな営業が苦手というお二人だが、サンフランシスコには、ローカル産や、新しいことに挑戦している人を応援する精神がある。例えば、『SFメイド (サンフランシスコにファクトリーを持つ企業が参加できる団体)』という団体では、直接取引がなくても、企業同士をマッチングして紹介してくれる。その団体からの紹介で、最近東京にも進出した「ダンデライオン・チョコレート」と酒粕を使ったデザートの協業案や、別の企業とは酒粕を使った化粧品の開発などの話が進んでいるという。
セコイヤを応援してくれる、友人のシェフが作ってくれたというチョコレートムース。材料はチョコレート、酒粕、お豆腐だそうだが、生クリームが入っていないのにしっとり濃厚で美味しかった。
今後の展望
今後の展望について伺うと、一番大切なのは「地元の人に愛してもらう」。そしていずれボトルショックという映画(カリフォルニアワインがフランスから認められるストーリー)のように、「日本からも認められる」ようになりたいと話してくれた。
サンフランシスコでは、地元の人に支援されて、愛されるようになることがビジネスを行う上で不可欠である。それに成功すれば、いずれ結果はついて来る。セコイヤ・サケが日本に逆輸入される日も来るのかもしれない。
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